馬込文士村解説板 榊山潤

馬込文士村を執筆した 榊山潤(1900~1980) 小説家

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明治33年横浜生まれ。
特派員として戦中の上海やバンコク・ビルマなどを訪れ、これらの経験をもとに執筆活動を行った。昭和14年長編小説【歴史】で第3回新潮社文芸賞を受賞。
馬込には昭和2年に時事新報社時代に移り住み、後に【馬込文士村】を執筆する。

無銭飲食未遂事件
 ある日のこと、「うなぎをご馳走してやる」と誘いを受けた秋田と榊山は店で尾崎を待っていた。ところが卓のビールが四本になっても当人は姿を見せない。からっけつの二人は不安になってきた。出先に電話を入れてみればとっくに帰ったとのこと。
榊山が五本目のビールをたのみ、蒲焼きに手をつけようとすると、秋田は声を落とし、しかし鋭い調子で「よせ。」と言った。
秋田「それに手をつけるな。それを食うと無銭飲食になる。ビールだけなら無銭飲で済むだろう。罪が軽くなる。」
無銭飲とはおもしろい。榊山は笑いかけたが、秋田の顔を見ると笑いがこわばった。社に戻って金を取ってくるといっても秋田はきかない。
秋田「こうなれば一蓮托生、ブタ箱も一緒だ。」
榊山「そんなばかな……。」
看板三十分前、客もいなくなり、二人は途方に暮れていた。「首の座になおる時がきたようだな。」秋田が自嘲のように言ったとたん、尾崎が姿を現した。九時三十五分であった……。

参考文献 榊山潤【馬込文士村】

 

 

 

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