馬込文士村解説板 片山広子

大森の貴婦人 片山廣子(1878~1957) 歌人・翻訳家

<< 前のページに戻る

くちなし夫人  片山廣子をくちなし夫人と呼び出したのは、芥川龍之介と室生犀星である。
「どういふ場合でも他人の陰口をいはない典雅な夫人だった。年よりずっと若くてどこかフランチェスカ・ベルナニといふイタリイの古い女優の顔に似てゐた」
と映画通の犀星は、芥川をモデルにした作品「青い猿」の中で描いている。

 外交官の長女として上流階級に育ち、西洋的な気品と教養を持ち合わせた女性でした。
処女歌集『翡翠』を出したのちは、松村みね子の名でアイルランド文学の翻訳に打ち込み、また昭和三十一年には随筆集『燈火節』でエッセイスト賞を受けます。しかし廣子にとって文学活動はあくまで趣味であり、むしろ上流家庭の夫人がお金を稼ぐということに抵抗を感じてか、原稿料はいっさい受け取りませんでした。
大森にやってきたのは明治四十三年のことで、小林古径や川端龍子が参加していた『大森丘の会』にも加わっています。
廣子の住む大きな邸宅には村岡花子や佐多稲子など文学を志す人達が訪れていましたが、そのなかには彼女に憧れを抱いていた芥川龍之介や室生犀星、堀辰雄の姿もあったようです。

参考文献 近藤富枝【馬込文学地図】 染谷孝哉【大田文学地図】

 

 

 

<< 前のページに戻る

↑ PAGE TOP